論文

卒業論文:

藤本啓寛「教育福祉論の今日的価値 -戦後教育福祉論の学説史的再検討を通じて-」

概要:

発達障害への合理的配慮や、学校で対応しきれない子どもの貧困の可視化など、近年の教育領域における福祉ニーズは高まりを見せている。教育学では、小川利夫をはじめとした「教育福祉論」が隆盛を見せた時期があったが、小川の理論は以降教育学研究の中で積極的に取り上げられることはなく、教育福祉論は発展が遅れた。一方で2008年度よりスクールソーシャルワーカー活用事業が始まっており、現実の教育福祉的な課題と対応を前にして、理論的・歴史的研究が未整理のまま立ち遅れている現状がある。

そこで本論文では、教育福祉の学説史的な検討を通じて、①教育福祉論はなぜ発展しなかったのか。②教育福祉論が今日的な価値を持ちうるとするならば、それはなにか。という2つの問いに答える。学説史検討の結果、教育福祉論は戦後「萌芽期」「黎明期」「停滞期」「分岐期」「収束期」という5段階を経て現在に至っていることがわかった。萌芽期において、戦後の日本における教育福祉的「課題」や「視点」が少しずつ発見されてゆく。これらは、次の「黎明期」において教育福祉論として展開され、小川利夫や村上尚三郎といった理論家に引かれることとなった。しかしこれらは「養護施設での教育保障」あるいは「学校内での教育保障」であり、「学校外の教育保障」は含まれていなかった。すなわち、1980年代から増加する不登校という「学校外の子どもたち」の存在である。学校がもつ存在の自明性が揺らぐ事態に、学校教育を疑ってこなかった教育福祉論は口をつぐみ、これが教育福祉の理論的発展が止まる「停滞期」を導く。しかしそう長くない期間をおいて、暗黒期は黎明期の研究成果を引き継ぎつつ多種多様な研究者の立論による「分岐期」として展開した。ところが、停滞期の課題は残されたまま向き合われず、これらの研究や言説は教育学の中で発展を見せなかった。そのような中で歩みを着々と進めたのは、1980年代に「学校外」の問題に臨床的に向き合ってきた山下英三郎の実践である。山下の実践は時代の趨勢もあってスクールソーシャルワークの全国的拡大にまでつながり、学校を相対視する「福祉の目」によって子どもたちの抱える課題に寄り添い続け、現代の教育福祉的実践の中核的存在を占めるに至った。さらに、拡散期における各者各様の教育福祉論も、部分的にではあれスクールソーシャルワーク研究に合流し、教育福祉は「収束期」を迎える。一方で理論的な見地からも、教育福祉の歩みを総体的に定義づけようとする試みが吉田敦彦や川村匡由らによって行われた。

以上の学説史的検討による教育福祉の5段階変遷から、教育福祉の未発展の理由が顕在化してくる。第一に、「権利・運動の促進」に収斂しがちであり、多くの子どもたちが在籍する学校現場の「悲鳴」に対して明確な対策を打ち出せていなかったことである。第二に、「権利・運動の促進」に収斂しがちであり、学問としての妥当性を担保しえなかったことである。第三に、教育福祉論が主に教育学の側から行われてきたことで、「福祉」の視点の検討が軽んじられていたことである。

これらの課題に向き合うことによって、教育福祉はその成立の「難しさ」に答えながら今日的な価値を持ちえる。そのありようが、学校現場における子どもたちの悲鳴に向き合うスクールソーシャルワークの研究の推進と、「教育(学校)領域の社会福祉学」という観点から検討していくことによって生まれる「学校・教育の自明性の問い直し」ではないだろうか。

本論文のなしえた価値は、これまであまり省みられてこなかった教育福祉分野に対し学説史的な整理を試みたこと、小川教育福祉論、また教育福祉論全体の未発展に対し、学説史的説明を加えられたこと、スクールソーシャルワーク実践を教育福祉研究の中に位置づけたこと、教育福祉論への明確な方法的再定義をなしえたこと、社会福祉学の積み上げを勘案したことの5点である。一方で、時期区分の妥当性、教育福祉論の停滞と校内暴力の横行との関係性の妥当性、「教育福祉」を語らない教育福祉論の存在という3つの課題を残した。

 

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報告書等

2017/9/10(日)

・日本スクールソーシャルワーク協会 会報 第56号

「2017年度総会時研修会報告 私たちが”遊び”から学ぶこと(天野秀昭氏講演「遊びは”生きる力”の源 ~遊びを脳科学・社会学する~」)」

 

2017/1/26(木)

・日本学校ソーシャルワーク学会 会報 33号

「第3分科会 スクールソーシャルワーク研究における研究方法 ~新たな発見と気づき~」 報告

 

発表

2017/8/27(日)

・日本教育学会第76回大会 テーマ型研究発表 【テーマB-13】20世紀の子ども問題と教育福祉(b)

「戦後教育福祉論の学説史的再検討 ~スクールソーシャルワークとの不整合の解明~」(要旨集録pp.372~373)

 

2017/6/10(土)

「学校で実践する上での共通基盤」

第13回RJ全国交流会 自由報告②「2016年度 学校におけるRJサークルの取り組み」(早稲田大学11号館819教室)

修復的対話フォーラムのメンバーとして、中学校におけるRJサークル実施にあたっての課題について話をしました。

 

2016/12/11(日)

「平成27年度モニタリング結果報告 BtoSの重要性について」

東京都教育庁主催「教育支援コーディネーターフォーラム」(都民ホール)

第1部 教育支援基礎セミナー (1)学校支援基礎セミナー(企業・NPO等向け)

BtoS

企業が教育支援に取り組むときに、企業の事情を押し付けず、

学校を知ることが重要である(BtoS)ことを来場されたおよそ50企業に

お伝えしました。