私は現在、スクールソーシャルワーカー(SSW)についての研究に取り組んでいます。日本で制度化された歴史はまだ浅く、中には会ったことがない方もいらっしゃると思います。私自身も、SSWの実務・研究の両方で、「SSWってなに?」という問いに何度も直面してきました。

そこで、スクールソーシャルワーカーのことをあまりよく知らない方向けに、SSWについてざっくりとわかる情報をまとめておきます。

なお、以下に示すSSWのあり方は都道府県、指定都市、中核市、(間接補助事業として行う)市区町村といった実施主体によって大きく異なります。(例えば、週4日学校にいるSSWと、月に数日派遣依頼をしたら来るSSWでは、何ができるかは大きく変わってくるでしょう。)SSWについては書かれたもの・口コミ含め様々な情報が出回っていますが、そうした実施主体間の違いを差し引いて理解する必要があります

定義

法的定義:学校教育法施行規則第65条の4 「スクールソーシャルワーカーは、小学校における児童の福祉に関する支援に従事する。」
※中学校(第79条)・義務教育学校(第79条の8)・高等学校(第104条)・中等教育学校(第113条)・特別支援学校(第135条)にも準用する(同じこととする)。

職務内容

「SSWは何をする人なの?」とよく尋ねられます。「相談室でお話をする」といった典型的なカウンセリングのイメージに比べ、ソーシャルワークのイメージが共有されていないのも一因かもしれません。

教育相談等の有識者で構成された会議では、SSWの職務を次のように特徴づけています。

SSWは、児童生徒の最善の利益を保障するため、ソーシャルワークの価値・知識・技術を基盤とする福祉の専門性を有する者として、学校等においてソーシャルワークを行う専門職である。スクールソーシャルワークとは、不登校、いじめや暴力行為等問題行動、子供の貧困、児童虐待等の課題を抱える児童生徒の修学支援、健全育成、自己実現を図るため、ソーシャルワーク理論に基づき、児童生徒のニーズを把握し、支援を展開すると共に、保護者への支援、学校への働き掛け及び自治体の体制整備への働き掛けを行うことをいう。そのため、SSWの活動は、児童生徒という個人だけでなく、児童生徒の置かれた環境にも働き掛け児童生徒一人一人のQOL(生活の質)の向上とそれを可能とする学校・地域をつくるという特徴がある。

教育相談等に関する調査研究協力者会議(2017)「児童生徒の教育相談の充実について~学校の教育力を高める組織的な教育相談体制づくり~」

また各自治体がSSW活用事業を実施する際に参考にしている文部科学省の実施要領では、次の5つが列記されています。

① 問題を抱える児童生徒が置かれた環境への働き掛け
② 関係機関等とのネットワークの構築、連携・調整
③ 学校内におけるチーム体制の構築、支援
④ 保護者、教職員等に対する支援・相談・情報提供
⑤ 教職員等への研修活動

引用:文部科学省スクールソーシャルワーカー活用事業実施要領

もう少し具体的に整理してみます。直接支援としては、以下のような支援が挙げられます。

  • 面談
  • 電話
  • 構内巡回・授業観察
  • 家庭訪問
  • 同行支援
  • 関わり(遊び・居場所・サークル等)
  • 集団への働き掛け

間接支援としては、以下のような支援が挙げられます。

  • ケースに関わる情報共有・交換
  • ケースに関わらない情報共有・交換
  • ケース会議(ケースカンファレンス)への出席
  • ケース会議以外の支援に関わる会議への出席

これ以外にも、支援を支える次のような業務も行います。

  • 支援計画の作成
  • 支援の準備
  • ケース記録の作成
  • ケース記録以外の文書の作成
  • 専門性の向上・研修受講
  • 校内行事への参加
  • 社会資源の開拓

このように、SSWの職務は、具体例を挙げれば多岐に渡ります。しかし、目的は「児童生徒の権利を守る」とシンプルです。目的の下で、何をするのかを適宜柔軟に選択するのが、SSWの職務の特徴であるといえます。

資格

「SSWって、福祉の専門職と言うけれど、どんな人が就いているの?」ともよく聞かれます。

2020年時点で、社会福祉士保有者が63.6%、精神保健福祉士保有者が32.9%であると言われています。

※社会福祉士と精神保健福祉士の両方を重複して保有している人もいます。

※文部科学省が実施しているSSW活用事業のもとでの値のため、活用事業の補助を受けていない自治体の状況は捕捉できていません。

引用:スクールソーシャルワーカー活用事業に関するQ&A(PDF:676KB)

ちなみに、社会福祉士・精神保健福祉士それぞれの有資格者の中で、学校を職場にしている人はそれぞれ1%程度と、ソーシャルワーカーの職場の中でも学校はマイノリティであるといえます。

令和2年度社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士就労状況調査より管理者が作成。

スクールカウンセラーとの違い

学校には、SSW活用事業が始まった13年前となる1995年度からスクールカウンセラー(SC)が先行して定着しているため、その違いを聞かれることも多いです。ここではその違いを①専門性と②対応するケースの種別の2つから確認しておきます。

①専門性

SCは、心理の専門資格(臨床心理士・公認心理師等)を有していることが多いため、人の内側、つまり心理的変化を主眼とした支援を行います。
一方SSWは、福祉の専門資格(社会福祉士・精神保健福祉士等)を有していることが多いため、人の外側、つまり環境調整を中心とした支援を行います。
しかし、全ての問題は心と環境とさっぱり割り切れるわけではありません。また、心理の専門資格の取得過程で福祉的な視点を学ぶこともありますし、福祉の専門資格の取得過程で心理的な視点を学ぶこともあります。
つまり、両者は資格の主たる基盤となっている学問領域が異なるだけで、専門性の一部は重なっているといえます。
ただし、実際は各学校に配置されるSC・SSWの得意(不得意)に応じて分担がなされるほか、一方だけしかできないこと(SCの心理検査、SSWの地域の社会資源とのつながり)がある場合もあるため、「SCだけで十分だ(SSWだけで十分だ)」とは必ずしも限りません。

②対応するケースの種別

下図は、SCとSSWの対応するケースの種別を見やすくまとめたものです。

文部科学省「スクールカウンセラー等活用事業に関するQ&A」・「スクールソーシャルワーカー活用事業に関するQ&A」・各年度「学校基本調査」より管理者が作成。

※なお、SCは「1校あたりの対応回数(主な支援内容を1つ、1回ごとに1カウント)」であるのに対し、SSWは「1人あたりの支援内容別ケース数(児童生徒1人に対し、該当する項目全てをカウント、複数回の対応でも1人ならば1ケース)」です。したがってSCの中で(SSWの中で)多い・少ないを比較することには意味がありますが、SCとSSWの間で多い・少ないを比較することはあまり意味がありません。

以上から、SCとSSWの共通点・相違点について、下記のことが言えます。

  • どちらも「不登校」や「発達障害」のケースに多く対応している。
  • どの課題も、SCとSSWで明瞭に分かれてはいない。
  • SCについては、「友人・教職員との関係」や「その他」が多い。
  • SSWについては、「児童虐待」「貧困」「家庭環境」が多い

SSWの人数

「スクールカウンセラー(SC)なら知っているけれど・・・」という人も多いです。
それもそのはず、下図に示すように、SSWは増えてはいますが、SCに比べてまだまだ人数は少ないです。

文部科学省初等中等教育局児童生徒課「スクールカウンセラー等活用事業に関するQ&A」・「スクールソーシャルワーカー活用事業に関するQ&A」より管理者が作成。

ただし文部科学省が発表している統計資料上、SCは「配置校数」、SSWは「実人数」という異なる値ですので、比較する上では留意が必要です。
そこで、もう少しイメージしやすいグラフを作ってみました。

文部科学省初等中等教育局児童生徒課「スクールカウンセラー等活用事業に関するQ&A」・「スクールソーシャルワーカー活用事業に関するQ&A」・各年度版学校基本調査より管理者が作成。

これを見ると、2020年度時点で、小・中学校においては、SCは9割以上の学校に配置されている(≒週1回勤務等、相談に対応する何らかの準備がある)のに対し、SSWの対応率(1ケース以上対応した学校の割合)は6割程度にとどまっています。また、高等学校においては、SCは7割以上の学校に配置されているのに対し、SSWは4割を下回っています。

こうした状況からは、SSWがSCに比べてまだまだ少ない(各学校単位で十分に活用できる状況にはない)ということがわかります。

配置形態

まだまだ人数が少ないためか、先生・保護者の両方から、「SSWはどこにいるの?」ともよく聞かれます。

細分化すれば自治体ごとに様々な配置形態がありますが、概ね下記の2種類に分かれます。

派遣型:デスクが「教育センターにある」
 ・各校から「派遣依頼」を受けて出向く
 ・学校内では間接支援が中心となる

管理者作成。

配置型:デスクが「学校(拠点校)にある」
 ・拠点校に「配置」されている
 ・拠点校内では直接支援が中心となる

管理者作成。

なお、下表に示すように、義務教育である小・中学校では約7割強の自治体においてSSWが派遣型で活用されているのに対し、高等学校になると派遣型は4割ほどに落ち込み、配置型も4割程度と増えています。

文部科学省(2020)「令和元年度スクールソーシャルワーカー実践活動事例集」より管理者が集計。

勤務日数・待遇

実は、社会福祉士・精神保健福祉士の職域の中で、SSWは唯一「非正規がほとんど」の職域になっています。
下記に示す通り、他職種は約8割が正規職員であるのに対し、SSWで正規職員はわずか5~6%で、契約職員(有期労働)やパートタイム職員(短時間労働)が大半を占めています。
こうした事情もあり、他職種の年収平均は全ての雇用形態で400万円ほどであるのにたいし、SSWは300万円ほどと、非正規職員並みにとどまっています。

令和2年度社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士就労状況調査より管理者が作成。

なお、自治体によって勤務日数は異なり、それに応じて給与も変わります。
下図は東京都基礎自治体のSSWの募集要項に示されている勤務日数と給与の関係です。
最頻値は月16日(週4日)の勤務で、年収は概ね225万円~350万円に集中しています。

藤本啓寛(2022)「スクールソーシャルワーカーとして就職する困難-東京都基礎自治体への調査をもとに-」『早稲田大学大学院教育学研究科紀要別冊』28(2),pp.139-149.

参考になるWEBサイト

SSWを学んでいる学生の方や一般の方から、「SSWについて知りたい」という声もよくいただきます。
SSWについてもっと知りたい方は、下記のWEBサイトも参照してみてください。

・文部科学省「スクールソーシャルワーカー活用事業」

予算額や実施要領、SSWに関する基本的なQ&Aが掲載されています。

・文部科学省「スクールソーシャルワーカー実践活動事例集」

年度別・自治体別に、SSW活用事業がどのように実施されているのかがコンパクトにわかるようになっています。「自分が住んでいる自治体のSSWはどうなっているのか?」を知りたい場合は、最新年度の事例集の中からお住いの自治体のペ-ジをご覧ください。

・日本スクールソーシャルワーク協会WEBサイト

スクールソーシャルワークについてのNPO法人です。1999年に設立(2005年にNPO法人化)され、①スクールソーシャルワークについての基本理念にもとづく研修事業や相談事業を行っています。誰でも閲覧・フォローできるFacebookページでは、研修講座の案内や各自治体におけるSSWの募集情報も掲載されています。

・日本学校ソーシャルワーク学会WEBサイト

SSWについての学会です。①SSWについての研究の深化、②SSW実践の方向付け、③SSW養成のあり方の方向付けという3つの目的のもとで、2006年に設立されました。年に1回の大会や研究誌(『学校ソーシャルワーク研究』)の発行、研修の実施や地域ブロックごとの活動が行われています。研究動向について知りたい方は、『学校ソーシャルワーク研究』の目次に目を通してみてください。

SSWについての書籍等出版物については、スクールソーシャルワークに関する書籍のページをご覧ください。