大学院生生活に役立つ書籍・Web等
一般に、人文・社会科学系大学院生として送る数年間はいろいろと苦しい生活を送る人が多いかと思います。2017年度から5年間、私自身もそうだった者の1人です。
そこで、大学院生生活に役立つ書籍やWeb等をここにアーカイブしていきたいと思います。あまり一般には出回っていないものもありますが、興味がある方は研究の休憩がてら、楽しみながら探してみてください。
※いずれも私が目を通したもので、まぁ紹介してもいいかな、という本を厳選しています。大学院生に役立つ情報は、いずれ古くなるというか、その人がどのような社会的コーホートにいたかに大きく影響を受けると思います。いずれの本も万人に役立つとは限らないということをご承知おきのうえ参考にしてください。
※研究方法論よりも、研究者としての人生を生きる術寄りのアーカイブになっていると思います。少し偏っている点もご理解ください。
総論
・石黒圭(2021)『文系研究者になる: 「研究する人生」を歩むためのガイドブック』研究社。
決める・考える・読む・調べる・話す・書く・つながる・生きるといった、大学院生の行動ベースで、研究を始める前に知っておきたい知識がまとまっています。初めて大学院に入った修士1年生、これから研究者を目指そうとする博士後期課程1年生に”1冊だけ”お勧めするとしたら、私はまずこの本をお勧めします。
特に「第7章 つながる(関係)」や「第8章 生きる(生活)」は、研究方法論のテキストにはあまり載らない内容であるため、ここだけでも目を通す意味はあるかと思います。周りにロールモデルとなる(現・元)大学院生が見当たらない方にお勧めです。
・東郷 雄二(2009)『新版 文科系必修研究生活術』筑摩書房。
古い本ですので、現在ではだいぶ情報が古くなっていますが、それでも「第2章 研究環境を作る」、「第3章 研究テーマを選ぶ」などは、類書の中では最もわかりやすくかつ簡潔に書かれていると思います。
キャリア・生活
・榎木英介(2010)『博士漂流時代 「余った博士」はどうなるか?』ディスカヴァー・トゥエンティワン。
もう10年以上前の本ですが、社会の中の博士(学位取得者)の位置づけを概括するのに役立ちます。ただし、時代の変化に伴い少しづつ支援策は拡充されつつある点は差し引いて読んだ方がいいかもしれません。
・岡崎匡史(2013)『文系大学院生サバイバル』ディスカヴァー・トゥエンティワン。
こちらももう10年前の本で、やや強調が目立つ語調ではありますが、文系大学院生の置かれた状況を概括できます。
・佐藤裕・三浦美樹・青木深/一橋大学学生支援センター(2014)『人文・社会科学系大学院生のキャリアを切り拓く 〈研究と就職〉をつなぐ実践』大月書店。
大学院生の生存戦略(サバイバル・ストラテジー)に関する本の中でも、もっとも妥当というか、多くの人が目指せる地に足のついた提案がたくさんある本です。失敗談がたくさん書かれていたり、研究・就活・学位申請等を並行させながらどのように進めたのかが時系列で書かれているなど、かなり具体的にどう進めればよいのかがわかる本です。共著でもあるため、「この人はなんだか合わないけど、この人なら合うかも・・・」といった読み手の側の多様性にも対応しやすい1冊かと思います。
・(2021)『研究者の結婚生活』・『研究者の子育て』日本の研究者出版。
研究者が(研究者と)結婚すると何が起きるのか。また、研究者が(研究者と)子育てするとどんなことになるのか。マンガも交えながらコミカルに書かれているので、活字に疲れたときに読むのに最適です。実名・匿名交えた複数人の体験談で構成されているのですが、匿名だからこそここまでぶっちゃけられる、そんな実話もたくさん入っています。読んだからすぐ解決方法が得られるというわけではありませんが、「この悩み、自分だけじゃないんだ・・・!」「苦労もこんな風に乗り越えていけるかもしれない・・・」といったことに気付かせてくれる本です。パートナーや家族形成のことで迷っている人は必読です。
・実験太朗・立花美月(2012)『研究者マンガ「ハカセといふ生物(いきもの)」』技術評論社。
この本は大学院生というよりも、大学院生(研究者)をパートナーにする人にお勧めしたい本です。自分を含め(!)、研究者と言うのはときに理解できない行動をとると思います。その理由は、当人に訊くのが一番ではありますが、そんな行動をコミカルに笑い飛ばすための”先行事例”がたくさん詰まっています。全ページカラーなので、白黒の論文購読に疲れた人にもおすすめです。
学振特別研究員
・大上雅史(2021)『学振申請書の書き方とコツ 改訂第2版 DC/PD獲得を目指す若者へ』講談社。
私が学振特別研究員の申請書を書いたとき(2018年4-5月・2019年4-5月)は、2016年に出版された第1版を参考にさせていただきました。
この本1冊で、学振とは何か、その審査がどのように行われるのかがわかります。学振採用者の申請書サンプルもあるので、学振の申請書を書くために最初に読む1冊としてお勧めです。(最初は、何をどう書けばよいのかに悩んでしまう人が多いかと思うので・・・。先輩や先生に見せる前に、この本に書かれていることをマスターした上で持っていくことができれば、基礎・基本をクリアした上で添削・修正作業に入れるはずです。)
論文執筆
・石井クンツ昌子(2010)『社会科学系のための英語研究論文の書き方 執筆から発表・投稿までの基礎知識』ミネルヴァ書房。
理系大学院生とはことなり、人文・社会科学系大学院生の場合、論文執筆は必ず英語でなければならないというわけではないかと思います。一方で、英語で論文を書くことで読者を日本に限らず世界に広げることができるのも事実です。この本は、「自分に英語論文は書けるのだろうか・・・?」という不安を吹き飛ばしてくれるくらい、懇切丁寧に英語論文の書き方が書かれています。統計パートの具体的な表現例や、日本語とは異なるタイトルの付け方・留意点などもとても参考になります。研究者人生の中で手元に1冊置いておきたい本の一つです。
大学教員のイメージを膨らませる
・櫻田大造(2011)『大学教員採用・人事のカラクリ』中央公論新社。
大学教員採用がどのように行われるのか、新書ながらもこの1冊に詰まっています。少し古くはなっていますが、内容は今でも生きるものがたくさんあります。仕組みのみならず、どのような人が大学教員への就職に成功・失敗しているのかといった筆者のインタビューに基づくケーススタディが豊富で、「先輩からあまりこういう話は聞きづらい・・・」という人でも役立ちます。
・多井学(2023)『大学教授こそこそ日記』フォレスト出版。
多井先生(ペンネーム)が、大学教員(研究者)目線で、この業界の喜怒哀楽を描いてくれます。具体的なノウハウというよりも、一つの喜劇(失礼!?)のように読めると思います。時代こそ違いますが、これから自分の大学教員人生を歩んでいく上で、具体的なイメージを掴むことができるはずです。(第4章の最後で少しショッキングなエピソードがありますので、気分が落ち込んでいるときはそこだけ注意を・・・。)どこか『大学教員採用・人事のカラクリ』と文体が似ている気がするのですが・・・気のせいですよね。
・斎藤恭一(2020)『大学教授が、「研究だけ」していると思ったら、大間違いだ!』イースト・プレス。
筆者は工学研究者ですが、学生指導や大学組織経営などの話は人文・社会科学系にも示唆的です。なかなか表では語れないような、大学教員の仕事トータルについてのバランスよいモノローグです。
《note》いずれも匿名で書かれているnoteです。匿名でありながらも、それぞれの経験に基づくアドバイスがとても説得的です。